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【日だまりにて】



 近くに来たついでに思い立ったことから、大谷吉継の屋敷を訪ねた石田三成は、どたどたと足音を立てて廊下を足早に歩く。
「刑部、刑部!」
 吉継に逃げられることはないのだから、大声をあげる必要も無いのだけれど、つい癖のように三成はいつもこうしてしまう。奥の座敷の縁側でひなたぼっこをしていたらしい吉継は、三成がそこに着いたのに合わせて顔をゆっくりと向けると、呆れたように軽く笑った。
「ぬしが来やると、この屋敷を蝕む静けさも息をひそめおる」
「ふん」
 三成は鼻を鳴らしただけで答えとすると、座している吉継を改めて見下ろした。松の内が明けたばかりの今、空気は冷えているけれど、陽が高い日中は、日なたにいる分には暖かいようだ。吉継は、三成が正月に合わせて贈った二重の着物と綿入りの羽織を纏っている他、すぐ傍に火鉢も置いている。その膝の上には、白く小さな猫の仔がいた。吉継の膝の上がとても心地よいのか、それはうっとりとした顔で目を閉じている。吉継が猫を飼い始めたとは、三成の耳には届いていない。

「これは何だ」
 顎をしゃくることで猫を差した三成は、吉継の横に腰を下ろす。吉継は、包帯が巻かれた両手でその頭を優しそうに撫でた。
「猫よ。見て分からぬか」
「そうではなくて……」
 三成は苛々としながら返答する。これを面白がったのか、吉継はわざとらしく首を竦めた後で、再び口を開いた。
「数日前、この庭に迷い込んできた。放っておいたのだが、こうしてわれの膝の上に乗ったまま逃げぬのでな。このままにしておる」
 その口調が何とも愛おしげであるのが癪に障った三成は、猫に触れると、吉継の膝の上から無理に追い出した。猫はびっくりしたように、どこぞへと逃げていく。それを見送った三成は、続けて体を横たえ、空いたばかりのそこに己の頭を乗せた。
 すると、頭上の吉継がひひひと笑う。
「猫に妬くとは、まこと滑稽」
「違う。この着物を毛だらけにされるのが許せなかっただけだ」
 三成は早口でこう言うと、吉継の着物に付着していた数本の白い毛を摘み、息を細く吐いて吹き飛ばした。ほぼ同時に、先程の猫がそうされていたように、吉継の手が頭に伸びてきたので、三成はされるがままになる。

 しかし、とある事が気になった。三成が吉継の膝を借りることは頻繁にあるとはいえ、それは胸中でどんどん大きくなっていく。とうとう聞かずにはいられなくなり、三成は口を開いた。
「刑部。私の頭は重いだろうか。そうしていて、貴様は辛くないのか」
「ぬしの重みには慣れておる故、あの猫では物足りぬと思っていたところよ」
「そうか」
 安心した三成は、日差しの暖かさに負けてうとうととし始める。暫くした後、腹の辺りに何か柔らかいものがあるのに気付き、薄目を開けてみた。すぐに、あの猫が戻ってきていて、そこで丸くなっていると分かったが、今度は手で払わずにそのままにさせる。二人と一匹の間で、穏やかな時がゆっくりと流れていった。


(了)20120202UP


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