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【色の影響】



 弁護士の成歩堂龍一は、ある赤と青の小さな物体を前にして、不思議な達成感を覚えていた。
「まさか、あの子に貰った物がこんな時に役に立つとは」
 成歩堂が頭に浮かべたのは、かつての依頼人だった少女・宝月茜である。科学捜査が大好きで、それを学ぶ為にアメリカに旅立った彼女だったが、無理に残していった置き土産の中に赤と青の食紅があったのである。他の物も含めて、成歩堂は「これ、何に使うんだ?」と首を傾げたものだが、中秋の名月である今日になって、ようやくその意味を見いだせたのだった。

 そう、成歩堂は事務所で月見団子を作る際に、その一部にそれぞれの食紅を混ぜ、赤と青の団子を生み出したのである。赤と青が一つずつの対になるように置いていくと、まるで青いスーツを着た自分と赤いスーツを着た御剣怜侍が寄り添っているように思えてならず、彼が大好きでたまらない成歩堂はとても幸せな気持ちになれている。

 しかし、団子を共に作った助手の綾里真宵には不評を買った。
「なんかさ……あたしが言うのも何だけど、これってよくないと思うよ」
「そんなことないさ」
 成歩堂は真宵の言葉を一蹴すると、その団子を携帯電話のカメラ機能で撮影し、御剣宛のメールに添付した。
 するとすぐに、返事が届いた。
「お、御剣だ! なになに『食べ物で遊ぶな』?」
「ほら、御剣検事に怒られたじゃない」
 成歩堂は真宵から得意げに言われたのを無視すると、「遊んでないよ」というメールを送り返した。そう待たずに、再び御剣からの返信があった。
「『そんなマズそうな物を君は食べるのか』だって」

 成歩堂には決してまずそうには見えないのだけれど、これを食べるのかと問われれば即答できそうになかった。自分たちに見立てた団子ということで、奇妙な思い入れが生じているせいであるのは勿論だが、これを見ていると何故か食欲が湧かないのである。
 成歩堂がついそれを言葉としてこぼすと、真宵から呆れられたように笑われた。
「そんなの当たり前じゃない。青い食べ物って食欲を減退させるんだよ。外国じゃ、ダイエットの為にわざと食べ物を青くする人だっているんだから」
 成歩堂ははぁと溜め息を吐くと、右手の指先で青い団子をちょいちょいと突つく。

 そうした末にようやく食べた団子の味は、おいしくもなくまずくもなくといった中途半端なもので、成歩堂は更に複雑な心境になった。おいしければ喜んで引き続き食べることができ、まずければ思い切って捨てられたからだ。これが調子に乗ったツケか……と思いながら、仕方なく一つ一つ食べていく。そのせいで、楽しみにしていた夕食時を過ぎても空腹にならず、最後まですっきりとしない気分だった。



(了)20110912UP


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